この記事のポイント
- つわりのピーク時期と症状の変化
- 効果的な食事のコツと栄養管理
- 日常生活での対処法
- 病院に相談すべきタイミング
?? 重要な注意事項
本記事の情報は教育・参考目的のものです。つわりの症状や対処法には個人差があります。症状が重い場合や不安がある場合は、必ず産婦人科医にご相談ください。
妊娠初期の多くの女性が経験するつわり。「いつまで続くの?」「どうやって乗り切ればいいの?」と不安に感じている方も多いのではないでしょうか。
つわりは個人差が大きく、症状の程度や持続期間も人それぞれです。本記事では、つわりの基本的な知識から効果的な対処法まで、科学的根拠に基づいた情報をお伝えします。
1. つわりとは?基本的な知識
つわりは妊娠初期に起こる悪心・嘔吐を主体とした症状群です。英語では「morning sickness」と呼ばれますが、実際には一日中症状が続くことも多く、「morning」という名称は必ずしも正確ではありません[1]。
つわりの発生率
日本産科婦人科学会によると、妊娠初期のつわりは妊婦の約50?80%が経験するとされています[2]。つまり、つわりを経験することは決して珍しいことではなく、妊娠の正常な経過の一部と考えられています。
つわりの原因
つわりの明確な原因は完全には解明されていませんが、以下の要因が関与していると考えられています:
- hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン):妊娠により急激に増加するホルモン
- エストロゲン:女性ホルモンの急激な変化
- プロゲステロン:消化管の運動を抑制する作用
- 心理的要因:ストレスや不安も症状に影響
?? つわりが軽い・ない場合も正常?
つわりの症状が軽い、または全くない場合もあります。これは体質や個人差によるもので、妊娠に問題があるわけではありません。症状の有無に関わらず、定期的な妊婦健診を受けることが大切です。
参考文献:
[1] Lacroix R, et al. Nausea and vomiting during pregnancy: A prospective study of its frequency, intensity, and patterns of change. Am J Obstet Gynecol. 2000;182(4):931-7.
[2] 日本産科婦人科学会「産婦人科診療ガイドライン産科編2020」
2. つわりのピーク時期
つわりの症状には一般的なパターンがあります。多くの研究により、以下のような経過をたどることが明らかになっています[3]:
症状の開始
軽い吐き気や食欲不振から始まることが多い時期です。
ピーク期
最も症状が強くなる時期。一日中の吐き気や嘔吐が見られます。
症状の軽減
多くの女性でつわりが軽減し始める時期です。
症状の終息
大部分の女性でつわりが終息します(個人差あり)。
個人差について
上記は一般的なパターンですが、実際には大きな個人差があります:
- 症状が続く期間:妊娠20週以降まで続く場合もある
- 症状の程度:軽い不快感から日常生活に支障をきたすレベルまで様々
- 症状のタイプ:吐き気中心、匂いに敏感、食べ物の好み変化など
参考文献:
[3] Gadsby R, et al. A prospective study of nausea and vomiting during pregnancy. Br J Gen Pract. 1993;43(371):245-8.
3. つわりの主な症状
つわりの症状は多岐にわたり、人によって現れ方が大きく異なります[4]。
身体的症状
?? 吐き気・嘔吐
最も一般的な症状。空腹時、満腹時問わず現れることがある
?? 匂いに過敏
特定の匂い(料理、香水、洗剤など)で吐き気が誘発される
??? 食べ物の好み変化
今まで好きだった食べ物が食べられなくなる、または特定の食べ物を欲する
?? 疲労感・眠気
強い疲労感や日中の眠気を感じることが多い
?? よだれの増加
唾液の分泌が増加し、飲み込みづらくなることがある
?? 胸やけ
胃酸の逆流による胸やけや胃部不快感
つわりのタイプ別分類
吐きつわり
嘔吐が主症状のタイプ。食事摂取が困難になることがある
食べつわり
空腹時に吐き気が強くなるタイプ。少量頻回の食事が必要
匂いつわり
特定の匂いに対する過敏性が主症状のタイプ
よだれつわり
唾液分泌過多が主症状で、頻繁に唾液を吐き出す必要がある
参考文献:
[4] 杉山陽一編「NEW エッセンシャル産科学・婦人科学 第3版」(2018)
4. つわり中の食事のコツ
つわり中の食事は、栄養バランスよりもまず「食べられるものを食べる」ことが重要です[5]。以下のポイントを参考にしてください。
基本的な食事の工夫
??? 少量頻回食
一度に大量に食べずに、少しずつ頻繁に食べる。空腹状態を避けることで吐き気を軽減できます。
?? 冷たい食べ物
匂いが少なく、胃への刺激が少ない冷たい食べ物を試してみる。
?? 炭水化物中心
パン、おにぎり、クラッカーなど、消化しやすい炭水化物から始める。
?? 水分補給
脱水を防ぐため、こまめな水分摂取を心がける。スポーツドリンクも有効。
つわりに効果的とされる食べ物
以下の食べ物は、多くの妊婦さんに効果があったと報告されています[6]:
?? 柑橘類
- レモン(レモン水、レモンキャンディ)
- グレープフルーツ
- オレンジ
※ビタミンCが豊富で、さっぱりとした味が吐き気を和らげる可能性があります。
?? 生姜(ジンジャー)
- 生姜茶
- 生姜クッキー
- 生姜キャンディ
※複数の研究で吐き気軽減効果が報告されています[7]。ただし、摂取量は1日1g程度に留めることが推奨されます。
?? シンプルな炭水化物
- プレーンなクラッカー
- 食パン(トーストなし)
- うどん(温かいもの)
- おかゆ
※消化しやすく、胃への負担が少ないため推奨されます。
避けた方が良い食べ物
- 匂いの強い食べ物:魚、にんにく、香辛料など
- 脂っこい食べ物:消化に時間がかかり胃に負担
- カフェイン:胃酸分泌を増加させる可能性
- アルコール:妊娠中は完全に避ける
?? 食事が全く摂れない場合
24時間以上食事や水分が摂取できない、体重が急激に減少している場合は、脱水や栄養失調のリスクがあります。速やかに医療機関を受診してください。
参考文献:
[5] ACOG Practice Bulletin No. 189: Nausea And Vomiting Of Pregnancy. Obstet Gynecol. 2018;131(1):e15-e30.
[6] Davis M. Nausea and vomiting of pregnancy: an evidence-based review. J Perinat Neonatal Nurs. 2004;18(4):312-28.
[7] Viljoen E, et al. A systematic review and meta-analysis of the effect and safety of ginger in the treatment of pregnancy-associated nausea and vomiting. Nutr J. 2014;13:20.
5. 栄養管理のポイント
つわり中は完璧な栄養バランスを目指すよりも、最低限必要な栄養素を確保することが大切です[8]。
優先すべき栄養素
?? 最優先:葉酸
推奨量:400μg/日
神経管閉鎖障害の予防に重要。サプリメントでの摂取が推奨されます。
?? 最優先:水分・電解質
脱水防止のため、こまめな水分補給を心がけてください。
?? 重要:ビタミンB6
推奨量:1.2mg/日
つわりの症状軽減に効果があるとされています[9]。
?? 重要:炭水化物
エネルギー源として必要。消化しやすい形で摂取しましょう。
栄養補助的な工夫
- マルチビタミン:医師と相談の上、妊婦用サプリメントの使用を検討
- 分割服用:鉄分サプリなどは胃の負担を軽減するため分割服用
- タイミング:空腹時や就寝前など、症状が軽い時間帯に服用
?? 栄養に関する重要な注意点
つわりの時期は胎児の器官形成期と重なりますが、この時期の胎児は小さく、母体の栄養貯蔵で十分対応できます。無理に食べようとしてストレスを感じるよりも、食べられるものを食べることを優先してください。
参考文献:
[8] 厚生労働省「妊産婦のための食事バランスガイド」(2021)
[9] Koren G, et al. Effectiveness of delayed-release doxylamine and pyridoxine for nausea and vomiting of pregnancy: a randomized placebo controlled trial. Am J Obstet Gynecol. 2010;203(6):571.e1-7.
6. 日常生活での対処法
食事以外にも、日常生活の工夫でつわりの症状を軽減できる場合があります[10]。
生活環境の工夫
??? 換気・空気清浄
匂いに敏感になるため、室内の換気を良くし、空気清浄機の使用も効果的です。
?? 充分な休息
疲労がつわりを悪化させることがあります。無理をせず、こまめに休息を取りましょう。
?? 入浴の工夫
熱いお湯は避け、ぬるめのお湯でリラックス。入浴剤の匂いに注意しましょう。
?? ゆったりした服装
お腹を締めつけない、ゆったりとした服装で過ごしましょう。
症状軽減のテクニック
?? アロマテラピー
ペパーミント、レモン、ジンジャーの香りが効果的とされています。ただし、妊娠中は使用量に注意が必要です[11]。
? 手首への圧迫
内関(手首から指3本分下の手のひら側)への圧迫や、専用のリストバンドが効果的な場合があります。
???♀? リラクゼーション
深呼吸、軽い瞑想、音楽鑑賞など、ストレス軽減がつわりの改善につながることがあります。
外出時の対策
- エチケット袋の携帯:急な吐き気に備えて
- 水分・軽食の持参:空腹やのどの渇きを避ける
- 混雑時間を避ける:電車やバスの混雑時は匂いが気になりやすい
- マスクの着用:匂い対策として効果的
参考文献:
[10] Erick M. Nausea and vomiting in pregnancy: what causes it and what can be done about it. Nat Clin Pract Gastroenterol Hepatol. 2006;3(7):360-8.
[11] Apay SE, et al. Effect of aromatherapy massage on dysmenorrhea in Turkish students. Pain Manag Nurs. 2012;13(4):236-40.
7. 病院に相談すべきタイミング
つわりの多くは自然に軽快しますが、以下の症状がある場合は早めに医療機関を受診してください[12]。
?? 緊急性の高い症状
重篤な脱水症状
- 24時間以上水分摂取ができない
- 尿量の著明な減少
- 口の中の乾燥
- 立ちくらみやめまい
体重の急激な減少
- 妊娠前体重の5%以上の減少
- 1週間で2kg以上の減少
その他の警告症状
- 血を吐く
- 高熱(38℃以上)
- 激しい腹痛
- 黄疸(目や皮膚が黄色くなる)
妊娠悪阻について
妊娠悪阻は、つわりが重症化した状態で、入院治療が必要になることがあります。以下の診断基準があります[13]:
- 妊娠前体重の5%以上の減少
- 脱水症状
- ケトン体の出現
- 電解質異常
治療オプション
医師に相談することで、以下のような治療選択肢があります:
?? こんな時は迷わず相談を
- 日常生活に支障をきたすレベルの症状
- 症状について不安や心配がある
- 家族のサポートだけでは対処が困難
- 他の体調不良と区別がつかない症状
参考文献:
[12] 日本産科婦人科学会「産婦人科診療ガイドライン産科編2020」CQ010妊娠悪阻
[13] American College of Obstetricians and Gynecologists. ACOG Practice Bulletin No. 189: Nausea And Vomiting Of Pregnancy. Obstet Gynecol. 2018;131(1):e15-e30.
8. 家族ができるサポート
つわりは本人だけでなく、家族にとっても大変な時期です。適切なサポートがつわりの軽減や妊婦さんの精神的安定につながります[14]。
パートナーができるサポート
?? 買い物・料理の代行
匂いに敏感になるため、食材の買い物や料理を代わりに行う。本人の食べたいものを優先する。
?? 家事の分担
掃除、洗濯などの家事を積極的に分担し、妊婦さんの負担を軽減する。
?? 理解と共感
症状について理解を示し、「気のせい」「みんな通る道」などの発言は避ける。
?? 健診への同行
可能な限り健診に同行し、医師からの説明を一緒に聞く。
家族全体でできること
- 匂いへの配慮:強い匂いの食事や香水、洗剤の使用を控える
- 静かな環境づくり:休息できる静かな環境を提供
- 柔軟な対応:食事の時間や内容について柔軟に対応する
- 緊急時の準備:医療機関の連絡先を共有し、緊急時に備える
上のお子さんがいる場合
既にお子さんがいる場合の特別な配慮:
- 年齢に応じた説明:お母さんの体調について理解できる範囲で説明
- 代替ケア:保育園の延長保育や親族のサポートを活用
- お子さんの心のケア:不安にならないよう十分な愛情を示す
参考文献:
[14] Chou FH, et al. Psychosocial factors related to nausea, vomiting, and fatigue in early pregnancy. J Nurs Scholarsh. 2008;40(2):147-54.
まとめ
つわりは妊娠初期の多くの女性が経験する症状で、個人差が大きいものです。重要なポイントをまとめると:
? ピーク時期
妊娠8?10週頃が最も症状が強く、多くは16週頃までに軽減します
??? 食事の工夫
少量頻回食、冷たいもの、炭水化物中心の食事が効果的です
?? 医師への相談
脱水や体重減少など心配な症状があれば早めに相談を
??????????? 家族のサポート
理解と具体的なサポートが症状軽減に大きく役立ちます
つわりはつらい症状ですが、一時的なものです。無理をせず、周囲のサポートを受けながら、この時期を乗り越えてください。症状に不安がある場合は、遠慮なく医療従事者に相談しましょう。
?? 関連情報
妊娠に関するより詳しい情報は、妊活から出産まで女性の健康完全ガイドをご覧ください。妊娠の各段階について包括的に解説しています。
?? 医療に関する重要な注意事項
本記事の情報は教育・参考目的のものです。つわりの症状や対処法には個人差があり、記載された方法が全ての方に効果があるとは限りません。症状が重い場合、不安がある場合、または他の体調不良が疑われる場合は、必ず産婦人科医にご相談ください。緊急の症状がある場合は、直ちに医療機関を受診してください。